一般財団法人
トライアングル金山記念聴覚障害児教育財団
2020年06月05日 14時23分 (#24)

コロナ禍 難聴児とマスク1

3月に新型コロナウィルスが蔓延し始め、マスク着用が社会通念の常識になった頃、普通級に在籍する難聴児の母としては大変憂慮すべき事態になったと危機感が募りました。ただ漠然と口の動きが見えない、声が曇るためロジャーを最大限に使えないのではないか、との懸念です。同時に、子供に聞いてみました。

「先生がマスクをいつもつけていたら困る?」「困る!」「何が困る?」「顔の表情がわからない。」

もっと詳しく聞いてみると、私が想像していた口形の読み取りの重要さより、話し手の表情を読み取ることの方が本人たちに取って大切な情報となっているようでした。

話し手の表情から『これはちゃんと聞いたほうがいい話だ』『ちゃんと聞こえなくても良い話だ』と判断していると。母としても、こうしてコミュニケーションに向き合っているのだと初めて知ったことでした。

通級先の担当の先生からお電話をいただいた際、上記の懸念について対応策をご存知か聞いてみました。返ってきたのは、「ああ、そうですよね」と今初めて知ったという印象を受けました。その後しばらく休校となったため、透明マスクができるといいな程度の漠然とした望みを抱くのみでしたが、いざ学校再開が近づいた際に再度通級先の先生に尋ねました。通級先でもフェイスシールドを試作などは対応してくれていましたが、各学校で広く普及を働きかける対応まではありません。また通級に在籍している他の保護者にも投げかけましたがあまりピンと来ていない様子でした。ただ、自治体の教育支援担当の方の連絡先を聞くことができ、まずは自治体の担当者に電話をしました。事情を話すと、状況はよくわかってくれ、必要であればフェイスシールドは学校の予算で購入可能であること、使用に際しては各学校の判断による、できればクラスの児童と保護者の同意が前提で使用してほしいと言われました。すぐに学校に電話をし、これまでの状況を話すと一つ返事で「わかりました。対応してみますね。」と快いお返事を頂きました。

その後、“大田区の企業がフェイスシールドを無償提供する”という新聞記事をたまたま目にし、メールで要望してみました。偶然にも学校の先生も同じ記事を目にして要望メールを出してくれ、所属の学校にフェイスシールドを送って頂きました。週1回の連絡日という担任と親子での短い面談の際に、フェイスシールドを試しに使用してくれ、「今後はこのスタイルで授業をする予定だけど、顔が見えるかな?」と子どもに確認もしてくれました。

これまでに経験のない状況下で今後どの不安が募る状態でしたが、適切に状況を話し子供自身の要望を伝えていけば解決策は見つかるし、対応もしてもらえることを強く感じました。在籍校にはわが子たちしか難聴児は在籍していません。少ない人数であっても配慮してもらえることに大変ありがたく思っています。将来的には子供自身が周囲に具体的な助けを求められる力をつけることも大切ですが、まだ義務教育のうちは、近い将来予想される事態に対して想像力を働かせて、支援を求めることが保護者としてなすべきこと、できることかと思います。

また、手前味噌ではありますが、これまでPTA活動にも積極的に関わり校長や副校長先生を始め学校の先生方と話す機会も多かったため、要望も伝えやすく、すんなり聞き入れて下さった要因の一つかとも思います。一方的な関係でなく、できることに協力して助けが必要なときに声をあげる、社会で生きる上での基本かもしれませんがこのことを強く実感した出来事です。

ただ、また後日談へと続きます。